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バグダッドの盗賊(1924年版)

昨日は最初から自宅にあるDVDの1枚で、久々に見たかった「バグダッドの盗賊」(1924年版)について書きます。


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スタッフ
製作 : ダグラス・フェアバンクス
原作 : ダグラス・フェアバンクス(クレジットでは、エルトン・トーマス)
監督 : ラオール・ウォルシュ
脚本 : ロッタ・ウッズ
撮影 : アーサー・エディソン


キャスト
バグダッドの盗賊 : ダグラス・フェアバンクス
王女 : ジュラン・ジョンストン
モンゴルの王子 : 上山草人
盗賊の仲間 : スニッツ・エドワーズ
モンゴルの奴隷 : アンナ・メイ・ウォン
カリフ : ブランドン・ハースト
聖人 : チャールズ・ベルチャー


ストーリー
昔々、夢の都バグダッドに1人の盗賊が住んでいた。

彼は欲しい物を手に入れる為なら手段を選ばず、勝手に他人の家に侵入して食べ物を奪ったり、魔法のロープをお祈りの時間をしている隙に盗んだり、モスクで救いを求めている人々をこき下ろしたりと、もう言いたい放題のやりたい放題。

ある日彼は仲間と共に貢物目当てで宮殿に侵入したが、そこで暮らしている王女に一目ぼれし、今まで平気でやっていた盗みが完全にそっちのけ状態。
見つかる前に脱出したが、その後も盗賊は王女の事で頭が一杯で、他の事に手が付けられない悶々とした日々を送っていた。
そんな時花婿候補に各国の王子が乗り込んできて、盗賊もそれらしい衣装を盗んでアーメッド王子と偽って、王女に接近する。
盗賊は王女に気に入られたのは良かったが、愛する人を騙し続ける事が苦痛になり、2人だけになった時に、遂に自分の正体を明かす。
王女はそんな彼を受け入れたが、すぐにこの事が知れ渡って、彼は宮殿から追放されてしまう。

結婚はもう一度やり直すハメになり、7ヶ月以内に一番珍しい宝物を持ってきた王子が選ばれるという条件になった。
途方に暮れた盗賊は、以前自分が馬鹿にしたモスクに足を運ぶが、そこの聖人は彼を拒絶する事なく温かく迎える。
彼から願いを叶えてくれる魔法の銀の箱の存在を教えられた盗賊は、それを手に入れる為の冒険をするが、その間にモンゴルの王子がバグダッドを侵略する準備に取り掛かっていた・・・。


レビュー
サイレント(無声)映画時代を代表するアクション大スターで、チャールズ・チャップリン氏やメアリー・ピックフォード氏、D・W・グリフィス氏と共にユナイテッド・アーティスツを設立した、ダグラス・フェアバンクス氏(実はロサンゼルスオリンピックの金メダリストである、西竹一男爵(通称と愛称は、バロン西)と親交があった)主演の、ファンタジーアドベンチャー映画。

フェアバンクス氏は「奇傑ゾロ」や「ロビン・フッド」といった剣戟をやっていた人ですが、本作では「千夜一夜物語(アラビアンナイト)」を基にした世界で活躍する様を描いています。

話自体は完全に悪が主役ではなく、途中で改心して自分の夢を実現する為に努力し、冒険する内容となっています。

当時人気だったフェアバンクス氏の独り舞台といった感じで、他の人物は添え物的な印象を受けますが、セットの出来や衣装、特撮は素晴らしく見応えがあります。
特に特撮は魔法のロープを動かしたり、水中を移動している時の様子など、「CGがない時代なのに、一体どうやって撮影したんだろう?」と言いたくなるシーンがあります。
魔法のロープはもしかしてピアノ線で吊っているのかな?と何となく想像出来ますが(空飛ぶ絨毯も、おそらくそれ)、巨大な海草がゆらゆら揺れているのは、未だに分かりません(もしかして下に大勢のスタッフがいて、上をピアノ線で吊って動かしているのだろうか?)。
セットについては単に出来が良いだけでなく、幻想的で神秘性が漂っており、雰囲気をより盛り上げています。

ワニやオオトカゲみたいなドラゴンや巨大コウモリ、巨大ミズグモ、天馬、主人公を導いてくれる木人といった怪獣が登場しますが、完全にやられ役で出番は少ないです(天馬と木人は、味方)。
同じ「アラビアンナイト」を基にしたファンタジー映画でも、レイ・ハリーハウゼン氏の「シンドバッド」シリーズみたいに、主役として扱っているのとは対照的です。

またドラゴンとの戦いや透明になれるアイテムの登場が、同時期のフリッツ・ラング監督の「ニーベルンゲン 第一部 ジークフリート」と共通しているのが面白いです。

敵役がモンゴルなのは、1258年にチンギス・ハーンの孫フレグ率いるモンゴル帝国が、イスラム帝国のアッバース朝を征服する為の包囲戦をした事があり(「バグダードの戦い」、もしくは「バグダッド包囲戦」の表記もあり)、それが影響しているのかもしれません。
「アリババと四十人の盗賊」(1944年版)も、敵役がモンゴルでしたし。

前半は人間ドラマ中心で特撮が入り込んでいる作りですが、後半は冒険する様が主となっており、2時間以上でありながらテンポ良く進んでいきます。

後に1940年、1961年、1978年にもリメイクされましたが、私がオススメする順番は、1940年版→1924年版→1961年版→1978年版です。
1940年版は魅力的な登場人物が多いですし、特撮やセットや衣装、音楽が素晴らしく、全てが洗練されていると言っても過言ではありません。
ディズニー版の「アラジン」は、どう見てもこれのリメイク、というかパクリとしか思えない出来です(そのアラジンで、本作を再現したイラストも存在する)。



予告編です↓

本作では、日本から後に黒澤明監督の「七人の侍」にも出演する、上山草人さんがモンゴル王子役で出演しました(見た目は、何となくフー・マンチューを思わせるが)。
本当は別人がやる筈だったのですが、酔っ払いで無理だったので、上山さんが代役で選ばれました。
これで有名になった上山さんは47本の映画に出演し、ロン・チェイニー氏やクララ・ボウ氏らと共演する事もあったようです。

この映画は日本でもヒットしたらしく、本作を基にしたアニメ映画「馬具田城の盗賊」が作られました。

息子のダグラス・フェアバンクス・ジュニア氏も、同じく「千夜一夜物語」を基にした、「船乗りシンドバッドの大冒険」(1947年版)で主役のシンドバッドを演じたという共通点があります。



出典

参考サイト

参考文献

by asabatyou | 2018-12-19 22:04 | 特撮、モンスター | Comments(2)

Commented by asabatyou at 2018-12-23 21:56
ツイッターで「バグダッドの盗賊」(1924年版)について書かれていましたが、https://twitter.com/mahorobia/status/997839064773681153に書いてある事が良いです。

それで改めて感じましたが、この映画は主人公の成長物語だという事です。
悪ガキのまま大人になってしまったかのような盗賊に、初めて愛すると同時に守るべき相手が出来て、周囲の協力を得ながらも、その王女に相応しい男になる為の試練を乗り越えて、本当にそれを叶えるという話ですから。

最初はどこか幼稚さがあった主人公ですが、自分のやるべき事が決まった後は、そのようなところは一切ありません。

周囲の人物も主人公の正体を知った時はボロクソに鞭で叩いたりしましたが、主人公が冒険の末、手に入れた魔法の銀の箱で、本物の王子になって帰ってきた時は、素直に主人公を認めていました。

そして敵役のモンゴルの王子は何か?と言いましたら、これは主人公の影で分身と言える存在です。
主人公は食べ物や金や宝などを盗んだりしていましたが、モンゴルの王子はバグダッド侵略を企んでいます。
主人公は最初惚れた王女をさらう事を考えていましたが、モンゴルの王子も王女を狙っているという共通点があります。
王子になった主人公は、王女を救って仲間達と協力しモンゴルの王子を成敗しますが、これは主人公が自分自身のダークサイドに打ち勝つという見方も出来ます。

今まで特撮やセットしか目が行きませんでしたが、実は人間ドラマも見応えがあって、よく出来ている事に気付きました。

それに王家の血筋でも何者でもない存在が、努力と勇気と優しさで王子になるという話は、夢と希望を与えてくれます。
Commented by asabatyou at 2018-12-27 19:11
本家の「バグダッドの盗賊」は主人公だけでなく、モンゴルの王子もそれに含まれると言えますが、最も有名で人気があるでろう1940年版になると、状況が違ってきます。

主人公の1人アーマッドはバグダッドの若き王様なのですが、政治は全て大臣のジャファーに任せていました。
しかしジャファーは、自分が嫌いなものは容赦なく処刑するだけでなく、アーマッドから王の座を奪おうと企んでいました(当然民は自由に生活出来ずピリピリしており、アーメッドに対する怒りや恨みは強い)。
なのでアーマッドがしっかりしていれば、こんな事にはならなかったので、事件を起こした全ての元凶と言えます。
ジャファーの陰謀で何もかもなくしたアーマッドですが、生活が苦しいけど色んな世界を見て冒険する事を夢見ている、盗賊少年のアブー(タイトルの「バグダッドの盗賊」とは、彼の事)と出会った事で、その運命が大きく変わる事になります(と言っても、イマイチ頼りないアーマッドを、アブーがフォローしながら進んでいく感じですが)。

YouTubeで日本語字幕付きの物がありますので、興味関心のある方は是非どうぞ。
ディズニー版「アラジン」が、「バグダッドの盗賊」の1924年版と1940年版のいいとこ取り且つ、似過ぎでやり過ぎなのがよく分かりますから↓

https://www.youtube.com/watch?v=X6B-MI6LOoI、

https://www.youtube.com/watch?v=1hpC3Y0dZmk